Vol. 33奥深き佐波理が奏でるおりんの響き南條工房LinNe 南條由希子さん
幸(sachi)とは?
職人技と呼ばれる“極み”を完成した人々、”ケアメンテ”も縁の下の力持ちに徹し、
静かに”技”を研鑽している。伝統工芸の職人技とケアメンテの職人技は共通しており、
それぞれの技の“極み”を発見してもらうために「幸」がある。
長年に渡りご紹介してきたハッピーの季刊誌 「幸(sachi)」が、WEB版に生まれ変わり待望の復刊です。
仏前で手を合わせる際に用いる仏具・おりん。音を鳴らすことでお参りの気持ちを表したり読経の始まりを伝える意味合いがあるだけでなく、澄んだ音色には邪気を払う力があるとされているそうです。宇治市にある南條工房は、そんなおりんをはじめとする鳴物神仏具を約200年にわたり作り続けている、全国でも数少ない専門工房。古くから伝わる技術を守りながら、おりんのさらなる可能性を引き出す現在のものづくりについて、同工房の南條由希子さんにお話を伺いました。
唯一無二の配合から生まれた奇跡の音色
おりんの歴史は古く、奈良時代に仏教が伝来すると仏教法具のひとつとして日本に伝わったとされています。鎌倉時代には坐禅や読経の区切りを表す道具として禅宗を中心に用いられるようになりました。寺院のみならず家庭内にも仏壇が置かれるようになった江戸時代には、欠かすことのできない仏具として暮らしの中に浸透していったようです。
南條工房がいつからおりんの製造を始めたのか定かではないものの、祇園祭の大船鉾に使われる囃子鉦(はやしかね)に「天保十年 南條勘三郎作」の銘が記されていることから、1830年代には鳴物神仏具製造に携わっていたことがわかります。
「現代では真鍮製のおりんが主流ですが、南條工房の製品は昔からすべて銅と錫(すず)を混ぜた佐波理(さはり)と呼ばれる青銅の一種を用いています。佐波理は正倉院御物にも見られる合金で、ホワイトゴールドのような美しい輝きがあり、澄んだ音色がよく伸びていくのが特徴なんですよ」
そういって南條さんがりん棒をおりんに軽く当てると、透明感のある音が優しく、それでいてしっかりと広がっていきます。
「佐波理は真鍮よりも硬く、その分振動が起きやすくて、細かな振動が余韻となってずっと続きます。当工房では5代目である祖父が、より良い音色を生む研究を重ね、以前よりも錫を多く含ませることで現在の音色となる技術を確立しました」
ただし、銀白色の錫の量を増やすことで美しい光沢になり、硬くて良い響きになる反面、鋳造には高い技術が求められるのだそうです。
「錫の含有量が増えると金属の粘りが減るため、力を加えると曲がるのではなくポキっと折れてしまうので加工が難しいんですよ」
南條工房のおりんは、錫の配合量を限界近くまで高めたことで生まれる唯一無二の佐波理だからこそ奏でられる音色なのです。
佐波理の原料となる銅線と錫のインゴット。南條工房では、昔ながらの技法でこれらを溶かして、1点1点手作業で製品を作っています。
原料を溶かす高炉ではコークスで火力を高めて、炎の色が赤から白、やがて黄緑へと変化するまで高温にします。
はるか昔から変わらぬ伝統の製法を継承
南條工房でのおりん作りは、型作りから鋳造、仕上げまですべての工程を6名の職人さんが分業で行っています。なかでも特徴的なのが、薪による焼型鋳造法による鋳造です。これは土、粘土、籾殻(もみがら)、黒鉛といった昔と変わらない材料で作られた鋳型(いがた)を薪で素焼きした後、まだ型が熱いうちに高温で溶かした佐波理を流し入れる(鋳込み)という技法で、弥生時代の銅鐸などにも見られる原始的な鋳造法だとか。
「鋳造が難しい佐波理の成型を可能にしているのがこの技法です。昔の職人さんたちが『こうすればよいものができる』と考えてきた技術が古代から継承されてきて、今になって科学的にもそれが最適だと証明されているような感じですね」
薪の種類やくべる際の温度、銅と錫の配合と音色の関係等々……先人が試行錯誤の末に導き出した技術が研鑽され、現在のおりん作りにも生かされているのです。
こうして鋳造されたおりんは、形を整え表面を滑らかにする旋盤加工やろくろ加工、音色を確認する検品、最終磨きなどの仕上げ作業を経てようやく完成に至ります。
鋳型に籾殻を混ぜるのは、「素焼きをすると籾殻が燃えて無くなり、鋳造時に発生するガスを吸収するための空間になるから」と南條さん。先人の知恵から生まれた技法が今も継承されています。
何度も使いまわす主型(おもがた)と呼ばれる外型と、1回ずつ新しく作る中子(なかご)と呼ばれる中型の表面を、土と粘土、黒鉛でコーティングしていきます。コーティングすることで型から佐波理を外しやすくなるそうです。
主型と中子を組み合わせ、2つが外れないように土と粘土、籾殻を練ったもので塗り固め、天日干しをしてから高温で焼いてようやく鋳型が完成します。
薪を使った型焼きの作業。型がまだ熱いうちに鋳込みを行わなくてはならないため、この作業は職人さん総出で行っています。
坩堝(るつぼ)に銅と錫を入れて高温のコークスで完全に溶かします。粘度のある状態から水のようにさらりとしてきたら型に注ぎ込むサイン。
焼き上がった製品の表面を滑らかにするとともに形状を整える切削作業は、七代目の南條和哉さんが担当。「真円で均一な厚みであることが、真っ直ぐな良い音には必要なんです」(和哉さん)。旋盤とろくろ、サンドペーパーによる磨きなどの作業を経て美しい輝きが生まれます。
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切削作業で生じた削りカス。これらや検品ではねられた製品を鋳造時に再利用することによって金属が安定化し、品質の良い佐波理になるのだとか。「1回ごとに壊す中子も砕いて再利用しているので、捨てるものはほとんどないんですよ」(南條さん)
新ブランド「LinNe」でおりんを身近に
南條工房では、もっとおりんの音色を身近に感じてほしいという想いから、2019年に新ブランド「LinNe(リンネ)」を立ち上げるとともに敷地内にスタジオを併設しました。吊り下げた小さなおりんをりん棒で鳴らすタイプのものや、軽く振って音を出すものなど、従来のお椀型から形状や楽しみ方を変えた愛らしいデザインのおりんが並んでいます。
「ドアベルや風受けとして楽しんでいただいたり、気持ちを切り替えたいときのリフレッシュアイテムとして利用していただくなど、いろんな使い方を提案しています」
そんな想いがじわりじわりと伝わり、ヨガなどの瞑想(メディテーション)をはじめとするヒーリング用途に使いたいという人も増えてきました。
「音色はその人がどう感じるかがすごく大事な部分です。自分がどんな音を使いたいのか、実際に音を聴いて選んでいただけたら」
1点1点手作業で作られているおりんは、製品ごとにかすかに音色が異なります。それだけに、自分の好みにあった一品を選ぶことができるのも、このスタジオならではの体験です。最近では噂を聞きつけた海外からのお客様も増えているとか。
かつては、その希少性から限られた人たちだけが耳にしていた佐波理のおりんの音色は、宗教や国籍、年齢を超えて、多くの人たちの心を癒す道具へと進化しています。
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直径3cm弱の小さなおりん「Chibi」シリーズは、宇治の「昇苑くみひも」(vol.29にてご紹介しています)で組み上げられたくみひもがデザインのアクセントに。吊るして利用したりベルのように振って音を楽しめます。
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卓上用の「Myo」シリーズのおりんは、ほっと一息つきたいときにぴったりの存在。ミニサイズのりん棒が心地よい音を響かせます。りん棒はマグネット付きで安定感も◎。
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瞑想などに用いられるシンギングボウル。表面を優しく撫でるように回すことで、緩やかな癒しの音色が広がります。

南條工房 LinNe STUDIO
初代南條勘三郎以来、七代にわたって続く鳴物神仏具の専門工房。一般の人にも広くおりんに触れてもらえる場所として建てられた「LinNe STUDIO」では、伝統的な仏具「勘三郎りん」のほか、「LinNe」ブランドのおりんを直接手にとって音色を聴き比べることができるだけでなく、音のチューニングにも対応してもらえます。今の気持ちにぴったりと寄り添う自分だけの音色を探してみてはいかがでしょうか。
住所:京都府宇治市槇島町千足42-2
電話:0774-22-2181
https://linne-orin.com
※営業日時は不定期のため、HPの予約ページで確認を。

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