Vol. 28京都で
作られた雷門提灯髙橋提(ちょう)燈(ちん) 株式会社
作られた雷門提灯
幸(sachi)とは?
職人技と呼ばれる“極み”を完成した人々、”ケアメンテ”も縁の下の力持ちに徹し、
静かに”技”を研鑽している。伝統工芸の職人技とケアメンテの職人技は共通しており、
それぞれの技の“極み”を発見してもらうために「幸」がある。
長年に渡りご紹介してきたハッピーの季刊誌 「幸(sachi)」が、WEB版に生まれ変わり待望の復刊です。
夕暮れとともに明かりが灯されると、どこかワクワクするような、不思議な高揚感をもたらす提灯。浅草・雷門に代表されるような社寺の提灯は特に、日本的な風景として海外の観光客にも人気です。夏祭りやお盆に向けて提灯づくりが最盛期を迎えている髙橋提燈の丸山弥生さんに、同店の提灯づくりについてうかがいました。
神仏に供える神聖な灯り
社寺の軒下などにぶら下げられていることの多い提灯ですが、そのルーツは室町時代に中国から伝わった灯火器とか。火は神聖なものと考えられ、「御神燈」や「奉燈」というように、神仏にお供えするものであったようです。
当時は折り畳むことができませんでしたが、やがて日常生活に使う道具として独自に進化し、現在のように小さく畳める形状になりました。
京都市下京区に本店を持つ髙橋提燈は、享保15年創業の老舗店。当初は扇子問屋であったという古い資料が残りますが、江戸末期には提灯を専門に商うようになっていたそうです。
「商売を考えると、夏だけでなく年間を通して需要のある提灯のほうが良かったのでしょうね」と丸山さんは推測します。扇子と提灯はどちらも、竹と和紙を材料にするという共通点もあり、転業しやすかったのかもしれません。
幼い頃から提灯づくりを間近で見てきた丸山さんは、提灯づくりの苦労や難しさを熟知。
営業担当として伝統提灯の魅力を発信しています。
どんな提灯にも対応できる技術を
一見複雑そうに見える提灯ですが、構造はシンプル。火袋と呼ばれる本体と、それを上下で留める曲げわっぱのような檜地の木枠、そして吊り下げるための金具など。地域性や用途に応じて大きさや形状に違いはあるものの、基本構造や材料はほぼ同じだそうです。
「一般的に東日本は、火袋の骨となる竹骨を螺旋状に巻いていく巻骨という技術でつくられていて下がすぼまっている形、西日本は短い竹骨を一段ずつ巻く地割(割骨)で卵型が多いと言われますが、私たちはお客様の希望に合わせてどちらにも対応できるようにしています」と丸山さん。というのも、「昔の提灯が破れたり壊れたりして、困りに困ってここに持ち込まれることが多いんですよ」と、全国的に提灯をつくる職人さんが減っていくなかで各地の提灯再現に力を尽くし、技術も自然と磨かれてきたのだとか。
大切にしているのは、その土地の伝統や風習を守ること。地域の人たちの思いに寄り添いながら、元の提灯と同じ技法でつくり直すよう努めているそうです。
風雨にさらされて傷んだ提灯(右)をもとに再現した提灯(左)。
仕上がりを左右する骨組みづくり
髙橋提燈では、工程ごとに専門の職人さんが担当する分業制を取り入れながら、互いにどの工程も担当できる技術を育てているそうです。
提灯づくりは、形状や大きさに合わせた木型を組み立てるところからスタート。型のフチに刻まれた小さな切り込みに合わせて、竹骨を巻いていきます。
「竹骨は長さだけでなく、提灯のサイズによって太さも変わるんですよ」。
型に合わせて骨組みをつくると、今度は骨組みが崩れないよう上下の竹骨を紐でしっかりと固定していきます。紐は全体のバランスを整えるとともに、広げたときに提灯が伸びて型崩れするのを防ぐ役割もあるそうで、仕上がりの美しさを左右する大事な工程です。

提灯のサイズや形状に応じてつくられた木型は何代にもわたって使われていて、なかには明治初期のものもあるそうです。

木型に竹骨を巻いて糸を掛けた状態。提灯のサイズによって竹骨や紐の太さを使い分けることで、美しい仕上がりに。
熟練の技が極まる紙張り
提灯の骨組みが完成すると、次は和紙を張る作業です。一見どれも同じ和紙に見えますが、「大きな提灯は重さがあるので、和紙もある程度の厚みが必要なんですよ」と丸山さん。
とはいえ、大きさに関わらず“畳む”ことが前提になっているのが、現代の提灯。
和紙が厚くなると折り畳みにくくなるため、厚すぎてもいけないそうです。
和紙を張る糊は、昔ながらのもち米を溶いたものを、和紙が付くか付かないかのギリギリの薄さにして使いますが、素早く張っていくのが職人さんの腕の見せどころとか。
「紙を触りすぎると生地が傷んでしまって、文字が書きにくくなるんです。しっかり強く張りすぎても、折り畳みにくくなるので難しい作業ですね」と、職人さんの声を代弁します。何よりも立体的な提灯に皺を寄せずに紙を張る作業は、熟練の職人さんだからこそできる技。
和紙と和紙のつなぎ目の重なりも、目立たないよう最小幅にすることで、一枚の和紙で仕上げたかのようにすっきりと美しい提灯に仕上がります。
和紙を張り終えて木型を外すと、「白張り」と呼ばれる提灯の完成です。
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| 大きな提灯は全体像の把握が難しく、バランスよく仕上げるため何度も確認を繰り返します。 | |
|---|---|
失敗が許されない絵付け・文字書き
和紙を張り合わせると乾燥を経て型を外し、いよいよ文字書きです。
用途に応じて文字以外に絵や紋を入れることもありますが、丸みがある上、表面に凹凸のある提灯に筆を入れる作業は、まさに職人技。失敗が許されないだけに、一筆ずつ細心の注意を払いながら書いていきます。
平面に書く場合とは違い、「下からや遠くから見たときに真っ直ぐに見えるように」というのが美しく見える秘訣だそうで、「最近はデザイン画を持ち込まれることもありますが、そのまま書くと掛けたときに違和感が出るんです。
そこは職人さんが一番わかっていますから、提灯の大きさや形状に合わせて調整しながら書いています」。

角度のついている部分は特に慎重になりながら、筆を入れていきます。

献燈用の提灯には、指定された書体や色で奉納者の名前を入れていきます。
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| 文字入れが済んだ提灯は、飾り金具や吊り手などをつけ、十分に乾燥させて完成です。最盛期は工場の天井や庭に提灯が掲げられ社内が活気づきます。 | |
|---|---|
搬送困難な巨大提灯の製作も
同店が手がけてきた提灯の中でも、最も有名なものが東京・浅草のシンボルでもある「雷門」の大提灯です。
幅3.3m、高さ3.9mもの大きな提灯は、重量が約700キロにもなるそうで、掛け替えが行なわれるごとに作業現場は緊張感に包まれます。
実は、同店ではこの雷門の提灯よりさらに大きなものも手がけています。それが、愛知県の三河一色諏訪神社に奉納されている「三河一色大提灯まつり」の大提灯で、高さはなんと10mにもなるのだとか。折り畳み可能な提灯とはいえ運搬が困難な大きさであることから、製作は現地で進められたそうです。
提灯に灯される火には、「気持ちをほっとさせたり、ワクワクさせる効果がある」と丸山さんは言います。
社寺の行事やお祭りだけでなく、近年店舗インテリアとしても活用されているのはその効果を自然と取り入れたものなのでしょう。
提灯はまさに、日々の暮らしの中に息づいた伝統文化。癒しと高揚感をもたらしてくれる提灯に、ゆっくりと目を向けてはいかがでしょうか。
「三河一色大提灯まつり」は、もともと6組の氏子が提灯の大きさを競い合って生まれたお祭りで、6対12張りの大きな提灯が境内に掛けられた様子は勇壮そのもの。
傷んで色褪せた古い提灯をもとに色や絵柄を復元し、何度も試作品を作って完成に漕ぎつけました。

髙橋提燈株式会社
自社職人によって1つ1つ手作業でつくることにこだわる老舗提灯店。
地蔵盆の奉納提灯や店舗用ディスプレイなど、用途に応じて1つからオーダー可能。
本店
〒600-8052 京都市下京区柳馬場綾小路下る塩屋町44
電話:075-351-1768
営業時間:9:00~17:00
定休日:日曜、祝日、第1・第3土曜
URL:http://www.chochin.jp
工場
京都市山科区勧修寺瀬戸河原町165
075-501-2929

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