Vol. 30室内に優美な煌めきをもたらす
京唐紙の美工藤祐史さん/京からかみ丸二
京唐紙の美工藤祐史さん/京からかみ丸二
幸(sachi)とは?
職人技と呼ばれる“極み”を完成した人々、”ケアメンテ”も縁の下の力持ちに徹し、
静かに”技”を研鑽している。伝統工芸の職人技とケアメンテの職人技は共通しており、
それぞれの技の“極み”を発見してもらうために「幸」がある。
長年に渡りご紹介してきたハッピーの季刊誌 「幸(sachi)」が、WEB版に生まれ変わり待望の復刊です。
「唐紙」と呼ばれる装飾紙をご存知でしょうか。
その名前が表す通り、かつて奈良時代に遣唐使によって唐からもたらされた美術紙のことで、古くは書や手紙をしたためるときの料紙に文様が写し出されていた紙でした。
その後京都で発展した優美な京唐紙は、桂離宮の襖をはじめ、寺院や茶室の襖や壁紙として用いられています。今回は、そんな伝統的な京唐紙づくりを今に伝える「京からかみ丸二」の工房を訪ねました。
空間に華やかさをもたらす雲母
高辻通柳馬場に工房を構える「京からかみ丸二」は、創業明治35年の京表具の老舗。襖や屏風、掛け軸など京都に欠かせない伝統文化を伝える店として技を磨き、現在は数少ない京唐紙の工房としても知られています。
同工房で京唐紙づくりを一手に担っている工藤祐史さんはこの道10年になる職人さんです。
以前は印刷会社でデザインの仕事をしていたそうですが、紙の持つ奥深さと可能性に興味を持ち職人の世界に飛び込みました。
瓢箪の壁紙を背景に話す工藤さん。
「京唐紙の特徴は、なんといっても独特の絵具にあります。接着剤である布海苔と貝殻を砕いて作られた胡粉に、鉱物から作られた雲母(きら/うんも)と呼ばれる顔料を調合して作られたもので、そのなかで雲母が独特のパール状の光沢と白さを生み、室内を華やかに仕上げてくれるんですよ」 今のような照明器具のなかった時代、薄暗い室内で雲母が静かに煌めき、空間を優美にしていたことがうかがえます。
-


気温や湿度によって絵具の調合を微妙に調整。経験によって培われてきた職人の技でもあります。 
絵具の材料となる布海苔は伝統的な接着剤で海藻の一種。煮溶かして用いられます。
手作業で進められる京唐紙づくり
和紙に版木で絵柄を移していく京唐紙づくりは一見版画のようでもありますが、その違いは工程にも見られます。「版画は刷毛で直接絵具を版木に塗ってバレンを使って摺りますが、京唐紙はバレンを使わないんですよ」
まず、丸い木枠にガーゼを張った篩(ふるい)と呼ばれる道具に刷毛で絵具をのせ、版木の上に軽く絵具を移していきます。間接的に色を移すことで均一に色をのせることができるのだとか。

篩と呼ばれる道具で版木に色を移す作業。これを使うことで均等に色をのせることができるそうです。

版木に絵具がのった状態。繊細な文様がしっかりと浮かび上がっています。
その後は優しく和紙を置いて手のひらですーっと円を描くように撫でるまでが1セット。手の動きは迷いがなく、流れるように作業が進みます。
「手で摺ることで京唐紙の特徴でもある立体感が生まれます。これを二度繰り返すことで手作業ならではの温かみのある風合いや質感が表れます」
一般的に襖紙1枚を仕上げるためには、この作業を横に2回、縦に6回繰り返します。
版木に和紙を置いたら手のひらで円を描くように撫でて色を移します。
そのために必要な工程が、版木の大きさに合わせて和紙に印をつける割り付けという作業。ほとんどの版木は、上下左右が連続した文様として成立するように彫られており、割り付けがずれると仕上がりに大きく影響が出てしまいます。
摺るときは割り付けの目印に合わせて版木を置き、文様がずれないように慎重に、それでいて手早く作業を進めていくのが腕の見せどころでも。
「1枚の襖紙の中に12回の作業を行うのですが、それぞれの力加減や色の濃さが違うと統一感が出ません。さらに部屋によっては同じ襖を4枚、6枚とご注文をいただくこともあり、全体でバランスよく仕上げることがこの仕事の難しさであり、面白さですね」

目を凝らしてようやく見える割り付けの目印。この小さな穴で版木と和紙の位置が決まります。
-


摺り上がったばかりの京唐紙は絵具が立体的に浮かび上がります。
-


二度摺りを含めると合計24回もの作業を繰り返して1枚の襖紙が摺りあがります。ひと通りの作業が終わると、平干しして自然乾燥させて完成です。 
襖用の和紙は越前鳥の子紙を中心に、用途に応じて奉書紙や黒谷和紙などが使い分けられているそうです。近年はモダンな色のものも多くあり、色合わせ次第でいろんな表情を楽しむことができます。
代々受け継がれてきた京唐紙の命・版木
版木には伝統的に朴木(ほうのき)が使われてきました。というのも、朴木は摩耗が少なく深く彫ることができるという特徴があり、京唐紙の文様を表現するのに向いているからだそうです。長持ちするため、今も創業時から伝わる版木が数多く使われています。
「版木の多くは何代も前から伝わってきたもので、なかには他所の屋号が記されているものもあるんですよ」といって見せてくださった版木には「唐亀」の屋号と「明治十六年」の文字が。丸二が創業する以前に作られたものがなんらかの理由で譲渡され、同社で受け継がれてきたのだそうです。
そんな版木は使用するごとに丁寧に水洗いして絵具をしっかりと落とし、乾燥させてまた次の出番を待ちます。
「木なので洗って乾燥させるとどうしても歪みが生じてしまいます。その歪みを直して使える状態に戻してまた大切に使っているんですよ」
緻密な柄が彫られた版木はどれも二度と同じものは作れないのではないかと思われるものばかり。京唐紙にとって命とも呼べる存在でもあります。
版木の裏側には、彫られたときの日付が記されているものも多くあり、古いものだと天保12年の裏書があるとか。
![]() |
![]() |
| 版木に描かれている文様は季節の花々をはじめ、鳳凰や蔓などの吉祥文様が中心。室内装飾として、華やかさに加えてめでたさが重視されていたことがわかります。 | |
|---|---|
室内装飾として幅広いインテリアに
主に襖紙として使われてきた京唐紙ですが、時代の変化とともにその用途も徐々に変化して、近年は壁紙やアートアパネルとしてホテルやショップなどの装飾に使われる機会が増えてきたそうです。
1000年以上の時を超えて進化してきた京唐紙。工藤さんは「脇役の存在」と話しますが、暮らしにアクセントをもたらす存在として、華やかなインテリアシーンで注目が高まっています。


京からかみ丸二(株式会社丸二)
明治35年に表具師として創業。
現在は襖建具、表具、インテリア材料の卸業と並んで京唐紙の自社工房も併設。
同社の「唐丸(karamaru)」は京唐紙の技を身近に体験できるスポットで、京唐紙のポストカードや手作りキットなどを買えるショップの他、実際に京唐紙づくりを体験できる体験コーナーも。
自分だけのポストカードやご朱印帳製作が人気を呼んでいる(要予約)。
唐丸(karamaru)
住所:京都市下京区高辻通柳馬場西入泉正寺町460
電話:075-361-1324
営業時間:10:00~17:30
定休日:月・日・祝日 ※夏期・年末年始
https://karamaru.kyoto/


バックナンバー
旧版(冊子版)のバックナンバーはPDFでご覧いただけます。
vol. 31
2024年6月
vol. 30
2023年6月
vol. 29
2023年1月
vol. 28
2022年8月
vol. 27
2022年1月
vol. 26
2021年8月
vol. 25
2019年9月
vol. 24
2019年2月
vol. 23
2018年10月
vol. 22
2018年5月
vol. 21
2018年2月
vol. 20
2010年9月
vol. 19
2010年8月
vol. 18
2010年4月
vol. 17
2009年7月
vol. 16
2010年1月
vol. 15
2009年4月
vol. 14
2009年1月
vol. 13
2008年10月
vol. 12
2008年8月
vol. 11
2008年7月
vol. 10
2008年2月
vol. 9
2007年12月
vol. 8
2006年秋
vol. 7
2006年夏
vol. 6
2006年春
vol. 5
2005年冬
vol. 4
2005年秋
vol. 3
2005年夏
(臨時)
vol. 2
2005年夏











Before&After 検索 / 概算お見積り事例集「さがす」
