“結ぶ”文化を支えてきた彩り豊かなくみひもの世界

幸 sachi

Vol. 29
“結ぶ”文化を支えてきた
彩り豊かなくみひもの世界有限会社昇苑くみひも 能勢将平さん

WEBマガジン 
幸(sachi)とは?
“技”を持つ職人達。華やかな表舞台の裏には人知れず腕を磨き精進する姿がある。
職人技と呼ばれる“極み”を完成した人々、”ケアメンテ”も縁の下の力持ちに徹し、
静かに”技”を研鑽している。伝統工芸の職人技とケアメンテの職人技は共通しており、
それぞれの技の“極み”を発見してもらうために「幸」がある。
長年に渡りご紹介してきたハッピーの季刊誌 「幸(sachi)」が、WEB版に生まれ変わり待望の復刊です。

色とりどりの糸を交差させてつくられる組紐。
なかでも京都でつくられてきた「京くみひも」は、国で定められた伝統的工芸品として京文化を支えてきました。
伝統的な帯締めをはじめ、近年はインテリアや身近なアクセサリーなど、組紐の新たな可能性に取り組む「昇苑くみひも」の能勢将平さんに組紐についてお話をうかがいました。

「昇苑くみひも」の能勢将平さんに組紐についてお話をうかがいました。

仏教とともに伝来した組紐の歴史

複数の糸を組み合わせてつくる組紐のルーツは世界各地に見られ、日本では縄文時代にまでさかのぼります。奈良時代に中国から仏教とともに組紐の高度な技術が伝わると、日本独自の感性で多様な紐がつくられるようになり、室町時代には現在の技術が完成したそうです。
真田紐が縦糸と横糸からなる織物であるのに対して、組紐の特徴はその名前の通り「組む紐」という点にあります。
「組紐は、道具がなくても最低3つの糸束があれば組むことができます。髪の毛でいう三つ編みですね」(能勢さん)と、組紐の基本構造は意外とシンプル。それでいて組台と呼ばれる道具を用いることで緻密で複雑な模様を生み出すことができるのです。

近年は先端素材とのコラボレーションやインテリアにも組紐が注目されています。「犬のリードのオーダーをいただいたことも。私たちが思いつかないものを注文されることもありますね」。

近年は先端素材とのコラボレーションやインテリアにも組紐が注目されています。「犬のリードのオーダーをいただいたことも。私たちが思いつかないものを注文されることもありますね」。

組台には、円形の丸台、四角形の角台のほか、織機に似た綾竹台や高台などの種類があり、紐の用途やデザインによって使い分けられていますが、どれも木玉に巻いた糸の束を順番に組んでいくという作業は同じです。
「4つの木玉で組む4つ組が基本ですが、デザインに合わせて木玉のサイズや個数を変えていて、複雑なものになると32玉以上で組むこともあります。木玉の動かし方で模様が変わるので、動きはシンプルですが実は奥が深いんですよ」。

コツンコツン…絹糸を巻きつけた木玉の中心には錘が入っていて、動かすたびに木玉どうしが当たる心地よい音がします。

コツンコツン…絹糸を巻きつけた木玉の中心には錘が入っていて、動かすたびに木玉どうしが当たる心地よい音がします。

意外と新しい帯締めとしての組紐

紐は羽織紐などのように結んだり箱を閉じたりしやすい機能性が追求されてきた一方で、飾りとしての装飾性も求められてきました。そのため美しさを競うように多様な模様が生み出されてきたのでしょう。
「組紐というと帯締めのイメージがあるかもしれませんが、実は帯締めは意外と新しくて江戸後期になってから生まれたものです。それまでは下緒と呼ばれる刀の鞘を彩る装飾や茶道具の飾り紐などの方が用途としては主流だったようですね」と能勢さん。特に京都で発展してきた「京くみひも」は、茶道具や仏具、工芸品、髪飾りなど幅広い用途に用いられていました。
「昇苑くみひも」では機械組で大量生産に対応する一方で、伝統の手組の技術を残そうと職人の育成にも力を注いできました。現在、京くみひもの伝統工芸士として同社で組紐づくりの指導を行っている梅原初美さんは、高校生の頃に組紐に出会って以来その魅力に引き込まれたと言います。

組紐に出会って50年になるという梅原初美さん。組紐作家として新作に取り組むと同時に、伝統工芸士として後継者の育成にも携わっています。

組紐に出会って50年になるという梅原初美さん。組紐作家として新作に取り組むと同時に、伝統工芸士として後継者の育成にも携わっています。

「最初は会社のお手伝いとしてアルバイト気分で始めたんです。だけど色の組み合わせ次第で無限に表現ができるところが楽しくてのめり込むようになりました」。
組紐は、絹糸を木玉に巻くところから始まります。木玉や組みはじめとなる部分には錘がつけられていて、手前の木玉を奥へ、奥の木玉を手前へ、と順序よく交差させていくことで、錘が張力となって目のそろった紐が生まれるのです。
「同じ力加減で手を動かさないと、仕上がったときに硬かったり緩かったりして一定にならないんですね」と話しながら迷いなく手を動かしていく様子はまさに熟練そのもの。木玉を動かす順番によって変わる模様の数は、一説によると千種以上にもなるそうで、梅原さんが手ほどきを受けた頃は図案のようなものはなく、全て口伝で継承されてきたのだとか。しかし今は技法ごとに手の動かし方を記し、次世代に伝えるために工夫をしています。

分業が多い伝統工芸の世界ですが、組紐は糸の準備から玉付け、仕上げの房付けまで一人で行います。

分業が多い伝統工芸の世界ですが、組紐は糸の準備から玉付け、仕上げの房付けまで一人で行います。

  • 一見織機のような道具は「綾竹台」と呼ばれ、ヘラで目をトントンと打って締めていきます。

    一見織機のような道具は「綾竹台」と呼ばれ、ヘラで目をトントンと打って締めていきます。

  • 組紐台の種類や技法によって仕上がりに違いが現れます。(左から高台、角台、丸台、綾竹台による作品)

    組紐台の種類や技法によって仕上がりに違いが現れます。(左から高台、角台、丸台、綾竹台による作品)

「紐」の可能性を探る

和装需要が減少するなか、「昇苑くみひも」では組紐の楽しさを伝えようと早くから自社製品の開発に乗り出して、携帯ストラップやアクセサリーなどの製品づくりも進めてきました。
「自社工場で染色から商品企画、製造まで行っているんですよ。実は数年前にある映画で組紐がキーアイテムとして取り上げられたことで、特に若い男性からの問い合わせやご購入が増えてきました」と振り返ります。
若い世代にも純粋に美しいものとして興味深く受け入れられたことは、能勢さんをはじめ社内でも大きな刺激になったそうです。最近では、さらなる組紐の可能性を広げようと、反射材を使った紐など先端技術とのコラボや、内装などインテリア分野へも進出し手応えを感じています。
「組紐は生活必需品ではありませんが、組紐の存在が暮らしを豊かにしたり楽しく感じてもらえるようなモノづくりを心がけていきたいですね」。
脇役から主役へ--。発想の転換と先端技術との融合によって新たな用途を創出する中で、組紐の存在感が高まっています。

工場では製紐機と呼ばれる機械の音が鳴り響き、高速で糸が組まれていきます。

工場では製紐機と呼ばれる機械の音が鳴り響き、高速で糸が組まれていきます。


  • 染色も自社工房で。色の組み合わせを変えるだけで印象の異なる仕上がりに。

    染色も自社工房で。色の組み合わせを変えるだけで印象の異なる仕上がりに。

  • 組紐のストラップは今や定番アイテムに。全て自社工房内でつくられています。

    組紐のストラップは今や定番アイテムに。全て自社工房内でつくられています。

  • カラフルな組紐はラッピングやハンドメイド材料として用途も広がります。

    カラフルな組紐はラッピングやハンドメイド材料として用途も広がります。

  • マスクのチャームにも使えるワンポイントアイテムも組紐の技術でつくられたもの。

    マスクのチャームにも使えるワンポイントアイテムも組紐の技術でつくられたもの。

有限会社昇苑くみひも
有限会社昇苑くみひも
「用途に合わせて手組のオーダーも可能」
有限会社昇苑くみひも

1948年に宇治市内にて、手組による和装小物を中心に扱う工房として創業。糸の染色から伝統的な手組、機械組による組紐づくり、加工までを一貫して行っている。そのジャンルはアクセサリーやアパレル、インテリア、神社仏閣、医療関係などと幅広い。宇治本店では、ストラップなどを組み上げる「手組み体験」も行っている。

宇治本店

宇治市宇治妙楽146
電話:0774-66-3535
営業時間:10:00~17:00
定休日:毎週火曜日(夏季、年末年始休業あり)
URL:https://www.showen.co.jp

SHOWEN/てんてんてん高台寺店

京都市東山区下河原町463-24
075-744-0214
営業時間:10:30~18:00(状況によって変更する場合がございます)

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